その日東京染井霊園を訪れた私の頭上は抜けるように青かった。
そこには芥川龍之介、芥川家の墓がある。龍之介が死んだのは七月二十四日の午前とも午後とも言われているが、その日も空は青かったのだろうか。 否、私は龍之介に青空は似つかわしくない様に思えて、勝手に曇空と思っている。 龍之介は三十五才で死んだ。私ももうすぐ三十五才だ。龍之介の墓の前でふとそのことに気付いた。 龍之介の作品を読むとそのジャンルの広さに驚かされる。何て理知的で教養に富んだ作品なんだろうと。 きっとうんと知能指数は高いのよなんて。でもどこか、頭と額だけ大きくなって心は数才のもしくは十代前半の少年のように写真の眼差しから感じるのは何故だろう。 少し微笑んで頬杖をついている―。 それから一世紀あまり。今は三十才で成人式をやれば丁度いいと言う人もいる。 龍之介は大人になりたくなかったのだろうか、それとも大人になってしまったのだろうか。 霊園は広くそこだけが何物にも犯されることのない空が広がっている。でもそこは東京。一本筋を違えば巣鴨のとげぬき地蔵も近い。そんなところに龍之介は眠っている。
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