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二〇〇六年春の俳句(一)

北開くネオ・バロックの館あり
 
電球のひとつが切れて余寒かな
 
ものの芽のまつすぐ空へ伸びてをり+
 
雨水かな次の一句に耳澄まし*
 
蓬摘いつしか籠の重くなり+
 
ふらここや白いタイツの少女ゐて
 
亀よ亀お濠も町も春めゐて
 
座敷より眺めてをりぬ水の春
 
桜といふ駅通過して春の雲
 
地図を手に東海道の春帽子
 
花堤吉良の殿さま今もゐて
 
料峭や少しばかりの鐘の音
 
いろいろの話聞きをり黄水仙+
 
芽柳や風はそこより生まれをり
 
菜の花や手を振る人の遠くなり*


二〇〇六年春の俳句(二)

初蝶を追ひて岬はすぐそこに
 
あたたかな雨に打たるる墓標かな+
 
異国にて眠れる人に花の雨
 
啄木忌汽笛は近く聞こゑをり
 
花曇マリアの像の白くあり
 
開かれし句帳に花の影のあり
 
竹秋や石棺深く置かれをり
 
春帽子遠くで高き声をあげ
 
気がつけば鎌倉にゐて春の雨
 
道々にいろいろのもの余花の雨*
 
穀雨かなスギゴケまつすぐのびてをり
 
遠霞舳先に人の動きあり
 
春の蚊や指先少し冷たくて+
 
あめをんな熊谷草を見てをりぬ*
 
野に畑に霜の名残の雨となり


二〇〇六年夏の俳句(一)

甘野老葉うらに蜘蛛のゆれてをり
 
やはらかき雨竹皮を脱ぐところ*
 
蜘蛛の糸四方八方緑雨かな
 
御石様もちあげてゐる五月かな
 
五月雨や朝より髪のととのはず*
 
麦秋や雨に装ひ定まらず*
 
江戸よりの花の名所に緑雨かな
 
明治よりかわらぬものも蔦若葉
 
潮の香のただよふてくる夏館
 
英一番館桑の実の青くあり*
 
短冊の少し湿りて桜桃忌
 
田の川の水はつめたくほととぎす+
 
真つ白き花そこここに梅雨晴るる
 
青草を刈るひと道をふさぎけり*
 
うすぐもり紫陽花ここに咲ひてをり


二〇〇六年夏の俳句(二)

白光の袋田の滝夏に入る*
 
水の玉あつめてをりぬ芙美子の忌
 
立葵改札口に人あふれ*
 
人よけてあぢさゐよけて成就院
 
六月のむらさきの花美しく
 
ゆきすぎて道をたずねし半夏雨*
 
黒揚羽帰りの道も同じとし
 
うつくしきものは短く毛虫かな
 
峰雲と少年と犬写りをり
 
店先は一間ばかり岐阜団扇
 
気に入りの扇何年使ひたる
 
水無月の亀と目のあふ昼下がり
 
南吹く井の頭池めぐりをり
 
夏の日の白鳥すこしよごれたる
 
木下闇しづかに鳥の声を聞き+


二〇〇六年夏の俳句(三)

噴水の数かぞへ行く井の頭
 
みづいろの花にかくるる糸蜻蛉+
 
浮島の一角太藺咲いてをり+
 
オレンジの花より大き黒揚羽
 
鱏さばく波打ち際の男かな+
 
兜虫角の折れたるものもをり
 
音もなく色もなき日のカンナかな
 
由比ヶ浜七里ヶ浜や土用波+
 
明け方の廊下の先の兜虫
 
砂粒をつれて帰りぬ葉月かな+
 
雨催ひ頭重たき我鬼忌かな
 
白木槿江の島雨にけぶりをり
 
海にそひ江の電にそふ梅雨の蝶
 
梅雨電車水兵さんに混じりをり
 
切り口の見事な平ら西瓜かな


二〇〇六年夏の俳句(四)

ゆるやかな山門までの夏木立
 
蝉時雨止めば少しく淋しかり
 
鷺草や切り絵のごとく咲いてをり*
 
蝉捕へ翅音思ひのほか強く+
 
蠅除けの下に三時のおやつかな
 
正座して盆供のものを揃へけり+
 
蠅たたき使ふことなく隅にあり+
 
空蝉の昨日もそこにありにけり+
 
風灼くる豆腐屋木桶並べをり
 
炎天の墓場を歩く女かな
 
真夏日と報じる空の青さかな
 
かまどうま緑に透けて生まれくる+
 
遺伝子に組み込まれたる盆踊り
 
八月の雨御嶽を隠しをり


二〇〇六年秋の俳句(一)

秋燕の一雨降らす雲をつれ+
 
木曾谷にいななきひとつ星流る*
 
今年酒抱へて山の雨にあひ*
 
唐黍の根のしっかりと地をつかみ
 
往来のしげき道なる白芙蓉
 
墓うらに廻り大ばつたに出会ひ
 
秋海棠訪ぬる人のなき墓も+
 
流れ星見ゆるところに生まれたる+
 
桐一葉風なきところ風を生み
 
米と塩供へて秋の神輿かな+
 
童心居かなかな近く遠くより
 
天高し一日象は立つてをり*
 
秋の蚊のまだまだ油断ならぬもの
 
秋の蚊に名残のムヒをぬつてをり
 
芋畑雨音強くなりにけり


二〇〇六年秋の俳句(二)

細き雨いつしか太く草の花
 
雨粒をつけてばつたの細き足+
 
赤のまま小さき虫の重なりて
 
くもの糸銀水引をひつぱれり
 
竹藪の奥へ奥へと九月かな+
 
耳朶に小さき真珠秋の風
 
吾亦紅歩け歩けと足のいひ
 
秋の野に色付いてゐる画帖かな
 
秋分の日の柔らかな笑ひ声
 
秋草にみんな隠れてしまひけり*
 
欄干にもたれておりぬ水の秋+
 
葉の下の小さき虫も秋の色
 
白萩のこぼるる石に座してをり
 
白萩の奥より翅音聞こへをり
 
風呂敷をきつちり結び秋彼岸+


二〇〇六年秋の俳句(三)

時鳥草つぼみの産毛ひかりをり
 
大甕の底に色あり水の秋
 
爽やかやブルーのシャツを着こなして
 
そのうちに手酌となりぬ今年酒
 
少しの間正座してをる菊日和
 
菊活けてはや十日ほどたちにけり*
 
合宿の漬物旨き夜食かな
 
ひんやりと陶土をまはす柿日和+
 
稲の香につつまれてゐる湯舟かな+
 
丸きものながめてをりぬ雨月かな
 
秋晴の山にしづかな茶房あり
 
かまきりを怒らせてゐる柿日和
 
高き木に登りて村は稲の秋
 
小包に野菜どつさり柿三つ+
 
秋の日やアキレス腱を真つすぐに+


二〇〇六年秋の俳句(四)

綿帽子しづかにすすむ秋日かな
 
新蕎麦を男二人で打ちにけり
 
鶴岡八幡宮に小鳥来る
 
茸狩や昼より赤き顔をして
 
茸狩や七輪前に待つてをり
 
蟷螂の物干し竿を進みけり
 
花びらの奥より露と蟻出づる
 
冬近し海からの風ふきつけて
 
その先を曲がればどこへ九月尽*
 
芋虫が壁垂直に登りけり*
 
実と同じ産毛のありし枇杷の花


二〇〇六年冬の俳句(一)

小春日の紀州青石温みけり+
 
いろいろの石跳びゆける小春かな
 
東京の十一月の青さかな*
 
つはぶきの花は水辺へ傾ぎをり
 
モンゴルの詩人と出会ふ小六月
 
お互ひに道ゆづり合ふ花八手+
 
帰り咲くりんごは小さき実を付けて
 
鈴の音の近付いて来る一葉忌
 
冬帽子二つ並びて前を行き
 
冬の蠅しつかり窓に張り付いて
 
冬空にしばし遮断機揺れてをり*
 
時雨るるや切山椒に指白く+
 
息白く竜泉寺町過ぎにけり
 
青きもの突き出してゐる冬の市
 
人も木も透けて見えたる冬日かな


二〇〇六年冬の俳句(二)

どんぶりに冬日の射して葱透けし
 
日記買ふところはいつも決めてをり
 
古暦二十四日は二重丸
 
細くとも人多き道冬紅葉
 
ネクタイに法被姿の落葉掻+
 
笹鳴の聞こゆる店のうどんかな*
 
枯蓮大きな声で笑ふ女
 
極月のとある一日集まれり
 
砂利と葉を丹念に分け落葉掻
 
帰り花ぽつんぽつんと白くあり+
 
日の射してあかるき色や冬紅葉
 
侘助や目立たぬ所咲いてをり
 
鎌倉をしづかに流る冬の川
 
冬薔薇一輪高く咲いてをり
 
寒鴉嘴より雨の滴垂れ


二〇〇六年冬の俳句(三)

寒の雨鳥のみ動くグラウンド
 
一日を物書くことに寒の入+
 
隣室もまた初句会してをりぬ
 
閼伽水の底まで冬の日射かな
 
冬うらら石屋の人と石のこと
 
着ぶくれて袋をさげて地蔵道
 
冬天や墓標しづかにながめをり
 
寒四郎よく晴れてをり墓にをり
 
少しだけ草履ならべて冬の菊*
 
鶴岡厄除祈祷冬終る
 
かかさぬはラジオ体操春を待つ
 
波際に寄る人もゐて四温かな+
 
神官のそつと欠伸を厄払ひ+
 
冬館大きな鳥のとまりけり