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二〇〇八年冬の俳句(一)

初氷しづかに水車回りけり*
 
岩の間に住みなす村や初氷
 
冬めくや木賊峠へ後少し*
 
一木に寄り添ふベンチ霜雫*
 
またたきのはげしき鳩や花八つ手
 
一の酉まだ出揃はぬ露店あり
 
竹切つて酒を酌みけり酉の市*
 
底冷えの滝に差したる薄日かな
 
倒木の苔青々と冬に入る
 
綿虫やうす暗がりの水の上*
 
煙吐く郵便局や日短*
 
室咲のバナナの花に蟻群れし
 
温室に生まれて冬の蠅となり*
 
大きな葉見つけて踏めば冬の音
 
冬紅葉実験室の低き椅子*


二〇〇八年冬の俳句(二)

笹鳴や水ひとところ澱みをり
 
二億年不滅のみどり冬に入る
 
髪光る日射しとなりぬ一葉忌*
 
小春日やかへらぬ繭の透けてをり
 
ちくわぶはきらひ東のおでんかな
 
寸胴にしづめて白き大根かな
 
ため息の一つこぼるるおでんかな
 
足元に風立つてゐる十二月*
 
一摑み冬菜を抜いて戻りけり*
 
足袋裏に日の当たりたる冬座敷
 
鳥ごゑの長くなりけり冬夕焼
 
極月の帆柱白く揃ひけり*
 
冬館開けてはならぬ扉かな
 
木の卓の角の丸みや十二月*
 
コート脱ぐ港は煙吐きながら*


二〇〇八年冬の俳句(三)

枯芝に短かき尻尾振りにけり
 
潮風にクリスマスリース鳴つてをり
 
真南は八丈島や冬かもめ*
 
冬凪て鳥の羽音の近きかな
 
女学校多き山の手冬薔薇
 
山の奥削る音あり日短
 
お社も鳥居も小さく野水仙*
 
着ぶくれて木を摑みつつ山の道
 
年輪を数へてをりし冬帽子
 
まじりなき空の青さよ十二月
 
冬晴や動いてをればあたたかし
 
冬晴やものみな軽き音をたて
 
石粒のやうに光し冬の蠅
 
広間まで長き廊下の湯ざめかな
 
藩校のいまも残れる氷柱かな*


二〇〇八年冬の俳句(四)

ちやんちやんこ着れば丸まる背中かな
 
冬菊や目を細めつつ猫の来る
 
流れ込む水音小さき冬の池
 
神官も鳩も真白く竜の玉
 
あをあをと八幡さまの氷かな
 
海難の碑は日に向いて竜の玉
 
枯芝やあたたかければ人の出で
 
枯菊や潮満ちてくる波の音
 
半世紀前の写真やお正月
 
前歯一本前歯二本の初笑
 
耳遠き人と話して今朝の春*
 
等伯の絵障子の前初霰
 
待春の南へ走る列車かな*
 
五坪ほどの畑に出てをり春を待つ
 
白壁の町に入り日や春隣


二〇〇八年冬の俳句(五)

川に水戻りつつあり春を待つ
 
平らかに土をかへして春を待つ
 
神官の素早く障子閉めにけり*
 
寒晴や切株のみを祀りをり
 
青竹を担いでゆきし初仕事
 
冬の鯉足音すればやはり来る
 
鉋屑柾目透けをり寒九かな
 
冬たんぽぽ葉は地に這つて伸びにけり
 
白きものいよいよ白し寒の内
 
どことなく歩き回りて寒埃
 
枯草の奥に枯草色の家
 
寒晴や小学校の角曲る*
 
探梅や遠くに入江光りをり
 
山風に頭冷たくなりにけり
 
新宿にサイレン絶えず浮寝鳥


二〇〇八年冬の俳句(六)

鳥ごゑと雨音のみや息白し*
 
明るさの戻らぬ日なり冬桜*
 
熊の子のやうな切株冬の雨
 
四十雀雨をいとはず春を待つ
 
鬼やらひ子に手加減といふはなし