初氷しづかに水車回りけり* 岩の間に住みなす村や初氷 冬めくや木賊峠へ後少し* 一木に寄り添ふベンチ霜雫* またたきのはげしき鳩や花八つ手 一の酉まだ出揃はぬ露店あり 竹切つて酒を酌みけり酉の市* 底冷えの滝に差したる薄日かな 倒木の苔青々と冬に入る 綿虫やうす暗がりの水の上* 煙吐く郵便局や日短* 室咲のバナナの花に蟻群れし 温室に生まれて冬の蠅となり* 大きな葉見つけて踏めば冬の音 冬紅葉実験室の低き椅子*
笹鳴や水ひとところ澱みをり 二億年不滅のみどり冬に入る 髪光る日射しとなりぬ一葉忌* 小春日やかへらぬ繭の透けてをり ちくわぶはきらひ東のおでんかな 寸胴にしづめて白き大根かな ため息の一つこぼるるおでんかな 足元に風立つてゐる十二月* 一摑み冬菜を抜いて戻りけり* 足袋裏に日の当たりたる冬座敷 鳥ごゑの長くなりけり冬夕焼 極月の帆柱白く揃ひけり* 冬館開けてはならぬ扉かな 木の卓の角の丸みや十二月* コート脱ぐ港は煙吐きながら*
枯芝に短かき尻尾振りにけり 潮風にクリスマスリース鳴つてをり 真南は八丈島や冬かもめ* 冬凪て鳥の羽音の近きかな 女学校多き山の手冬薔薇 山の奥削る音あり日短 お社も鳥居も小さく野水仙* 着ぶくれて木を摑みつつ山の道 年輪を数へてをりし冬帽子 まじりなき空の青さよ十二月 冬晴や動いてをればあたたかし 冬晴やものみな軽き音をたて 石粒のやうに光し冬の蠅 広間まで長き廊下の湯ざめかな 藩校のいまも残れる氷柱かな*
ちやんちやんこ着れば丸まる背中かな 冬菊や目を細めつつ猫の来る 流れ込む水音小さき冬の池 神官も鳩も真白く竜の玉 あをあをと八幡さまの氷かな 海難の碑は日に向いて竜の玉 枯芝やあたたかければ人の出で 枯菊や潮満ちてくる波の音 半世紀前の写真やお正月 前歯一本前歯二本の初笑 耳遠き人と話して今朝の春* 等伯の絵障子の前初霰 待春の南へ走る列車かな* 五坪ほどの畑に出てをり春を待つ 白壁の町に入り日や春隣
川に水戻りつつあり春を待つ 平らかに土をかへして春を待つ 神官の素早く障子閉めにけり* 寒晴や切株のみを祀りをり 青竹を担いでゆきし初仕事 冬の鯉足音すればやはり来る 鉋屑柾目透けをり寒九かな 冬たんぽぽ葉は地に這つて伸びにけり 白きものいよいよ白し寒の内 どことなく歩き回りて寒埃 枯草の奥に枯草色の家 寒晴や小学校の角曲る* 探梅や遠くに入江光りをり 山風に頭冷たくなりにけり 新宿にサイレン絶えず浮寝鳥
鳥ごゑと雨音のみや息白し* 明るさの戻らぬ日なり冬桜* 熊の子のやうな切株冬の雨 四十雀雨をいとはず春を待つ 鬼やらひ子に手加減といふはなし