IE.5 以降では縦書きで読むことができます.
| 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | etc

二〇〇九年春の俳句(一)

その塚のしるべとなりし藪椿
 
三椏やせまき石段ゆづりあふ
 
二ン月の浜風耳を圧しけり
 
雨吸って土厚くなり梅白し
 
二ン月や真つ赤な色のハーブティー
 
大銀杏見上げて青き二月かな
 
ものの芽や道尋ねつつ寺の外
 
二ン月の光届かぬ伽藍かな
 
勾配の少しある道春うれひ
 
春耕や雨に流れし土集め
 
春愁やボタンの糸のちぎれさう
 
鼻息を止めてうぐひすもちを食う
 
山茱萸に少し雨来て日の差せり
 
鳥の貌よく見えてをり藪椿*
 
春の水浚へば少し生臭き*


二〇〇九年春の俳句(二)

溶岩のやうな木の瘤凍返る
 
菓子の粉卓にこぼして梅の昼
 
雪降つてきさうな空や梅真白
 
裏庭の座敷こみ合ふ梅の昼
 
庭の隅水音絶えず沈丁花
 
風光る切り口赤き松の枝*
 
あかあかと眼を開き蟇つるむ*
 
たんぽぽや円柱の影伸びてくる*
 
駅降りてすぐの坂道春疾風
 
梅の花模したる燭や北開く
 
南国の種子にも似たり蝌蚪の紐
 
如月の波際に聞く泡の音
 
恋猫の尾の砂粒をこぼしゆく*
 
如月やはや砂浜に砂の城*
 
潮引けば島あらはるる若布干し


二〇〇九年春の俳句(三)

三和土まで砂吹き込んで若布干し
 
若布干す脇にサーファー風を待つ*
 
沖までは出でぬ小舟や鰆東風
 
足音の大きな人や雛の宿
 
妹にとられんとして女雛かな
 
軽き音たてて古竹垣手入*
 
ドア開くたびに春風吹いてくる*
 
井之頭恩賜公園百千鳥
 
船旅や花咲き初めしところより*
 
日陰かと思へば日向藪椿
 
風光る潮入池のしづかかな
 
船上の風は冷たく鳥曇
 
大川に汽笛いくども春うれひ
 
料峭や富士壺白く乾きをり
 
花馬酔木猫の小さく鳴き寄れり


二〇〇九年春の俳句(四)

山車蔵の錠前高く初桜
 
あたたかき雨の上がりし湯島かな*
 
梅散つて楷の木高くありにけり*
 
聖堂へ七人参る春の雨
 
雨音の廂にこもる彼岸かな
 
白木蓮真下に立てば明るかり
 
海昏く白くなりゆく春嵐*
 
春寒や窓一杯に雨の音
 
花辛夷一気に嵐来たりけり
 
春嵐どこか明るき空のあり
 
正面に荒れし海ある彼岸かな
 
傘の骨まで掴みけり春嵐
 
鳥影の過ぎゆく早さ花の昼
 
花びらの吹き込むままに花の家*
 
花の山抜けて冷たき列車かな


二〇〇九年春の俳句(五)

山吹やめぐれば広き寺の中*
 
風吹けば風に向かひし虚子忌かな
 
花馬酔木御堂しづかに閉ぢられし
 
横穴へ声ひびかせて濃山吹
 
下の名で皆呼び合ひし花祭
 
てふてふや少し伏したる花に寄り
 
うぐひすや山切り崩す音少し
 
海もまた近き鎌倉山笑ふ
 
ベレー帽少し大きく春の雲
 
逗子行きの列車見送る虚子忌かな*
 
白壁に日の当たりたる甘茶かな*
 
山の風桜吹雪となりにけり
 
てふてふや葉を裏返す風の中*
 
四手網しづめてをりし花の昼*
 
風の日の風の真中に青き踏む


二〇〇九年春の俳句(六)

桜蘂降りももいろの蚯蚓かな
 
木の扉開けて八十八夜かな*
 
帰り来て砂どこからか汐干狩*
 
帽の縁小さき虫這ふ藤の昼
 
帆柱の光る八十八夜かな