その塚のしるべとなりし藪椿 三椏やせまき石段ゆづりあふ 二ン月の浜風耳を圧しけり 雨吸って土厚くなり梅白し 二ン月や真つ赤な色のハーブティー 大銀杏見上げて青き二月かな ものの芽や道尋ねつつ寺の外 二ン月の光届かぬ伽藍かな 勾配の少しある道春うれひ 春耕や雨に流れし土集め 春愁やボタンの糸のちぎれさう 鼻息を止めてうぐひすもちを食う 山茱萸に少し雨来て日の差せり 鳥の貌よく見えてをり藪椿* 春の水浚へば少し生臭き*
溶岩のやうな木の瘤凍返る 菓子の粉卓にこぼして梅の昼 雪降つてきさうな空や梅真白 裏庭の座敷こみ合ふ梅の昼 庭の隅水音絶えず沈丁花 風光る切り口赤き松の枝* あかあかと眼を開き蟇つるむ* たんぽぽや円柱の影伸びてくる* 駅降りてすぐの坂道春疾風 梅の花模したる燭や北開く 南国の種子にも似たり蝌蚪の紐 如月の波際に聞く泡の音 恋猫の尾の砂粒をこぼしゆく* 如月やはや砂浜に砂の城* 潮引けば島あらはるる若布干し
三和土まで砂吹き込んで若布干し 若布干す脇にサーファー風を待つ* 沖までは出でぬ小舟や鰆東風 足音の大きな人や雛の宿 妹にとられんとして女雛かな 軽き音たてて古竹垣手入* ドア開くたびに春風吹いてくる* 井之頭恩賜公園百千鳥 船旅や花咲き初めしところより* 日陰かと思へば日向藪椿 風光る潮入池のしづかかな 船上の風は冷たく鳥曇 大川に汽笛いくども春うれひ 料峭や富士壺白く乾きをり 花馬酔木猫の小さく鳴き寄れり
山車蔵の錠前高く初桜 あたたかき雨の上がりし湯島かな* 梅散つて楷の木高くありにけり* 聖堂へ七人参る春の雨 雨音の廂にこもる彼岸かな 白木蓮真下に立てば明るかり 海昏く白くなりゆく春嵐* 春寒や窓一杯に雨の音 花辛夷一気に嵐来たりけり 春嵐どこか明るき空のあり 正面に荒れし海ある彼岸かな 傘の骨まで掴みけり春嵐 鳥影の過ぎゆく早さ花の昼 花びらの吹き込むままに花の家* 花の山抜けて冷たき列車かな
山吹やめぐれば広き寺の中* 風吹けば風に向かひし虚子忌かな 花馬酔木御堂しづかに閉ぢられし 横穴へ声ひびかせて濃山吹 下の名で皆呼び合ひし花祭 てふてふや少し伏したる花に寄り うぐひすや山切り崩す音少し 海もまた近き鎌倉山笑ふ ベレー帽少し大きく春の雲 逗子行きの列車見送る虚子忌かな* 白壁に日の当たりたる甘茶かな* 山の風桜吹雪となりにけり てふてふや葉を裏返す風の中* 四手網しづめてをりし花の昼* 風の日の風の真中に青き踏む
桜蘂降りももいろの蚯蚓かな 木の扉開けて八十八夜かな* 帰り来て砂どこからか汐干狩* 帽の縁小さき虫這ふ藤の昼 帆柱の光る八十八夜かな