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二〇一〇年投稿の俳句(一)

口中に梅干ふふみ雪見酒
 
赤き実を生垣として雪籠
 
工房に透けし赤・青ガラス雛
 
卵焼のはじつこもらふ雛の昼
 
貝寄風や胸元にある石冷た
 
貝寄風や貝吐く砂の光りをり
 
冬の鷺泥撥ね上げす歩みをり
 
音たてて小梅を含み女正月
 
青みつつ袋田の滝氷りけり
 
●●●●●●●●●●●●
 
枯芝につづき句碑あり松のあり
 
金柑や置き物多き庭の家
 
深々と腰掛けてゐる冬座敷
 
寒中の胸にこつんと双眼鏡
 
四温かな子供はいつも水がすき


二〇一〇年投稿の俳句(二)

菜の花の根本あかるき土の色
 
岩肌を透かして滝の氷りけり
 
荒星や電柱いまだ木の道を
 
雨雪に変はる峠や梅白し
 
時告げるサイレン低く寒戻る
 
坂東の風荒きなか鳥帰る
 
梅東風や声掛け合ひし山の道
 
街一つ見下ろしてゐる雨水かな
 
ボリュームをあげてバッハや地虫出づ
 
筆先の迷ふことなき春ショール
 
塗椀に浮かぶ搔卵春の昼
 
物売りの遠慮がちなり犬ふぐり
 
あをみたる昼の月あり不器男の忌 白梅の多き村なり山低く くぐもりし車掌の声や春の昼 北窓を開く把手の多き家 雨止んで土やはらかに茎立てる 春は曙寝息をたてし子の眠り 閉店となれば混み合ふ遅日かな 春の雪羽毛水辺にあつまれり 双眼鏡かたはらに置く日永かな たんと寝てたんとおあがり粽結ふ 名の謂れまた聞き返す粽かな 灯光に答ふる汽笛蝉生る ●●●●●●●●●●●●もう一つ 耕の手指束子で洗ひをり 縄張は一ヘクタール雉鳴けり 朝上がり雉のほろろに目覚めをり 白木瓜の花雨粒をためてをり 春の水短かき橋を渡りつぎ 止むときはしづかな雨や抱卵期 あをぞらに争ふ春の鴉かな 木の幹の斑模様や春の雲



二〇〇九年投稿の俳句(一)

田の隅に松立ててあり初仕事
 
五坪ほどの畑に出てをり春を待つ
 
物置の鍵穴固し下萌ゆる
 
家猫の臆病なりし下萌ゆる
 
涅槃西風関八州の土あかく*
 
墓周り箒目ありて涅槃西風
 
文箱の文読み返す霜夜かな
 
寒木瓜に座敷明るくなりにけり
 
日に三度雪の中来る列車かな*
 
雪の端を踏んで城跡めぐりをり
 
塩壺の底にかたまり寒の塩
 
足跡をつけて一寸ほどの雪
 
雨宿り木の香ほのかに寒明くる
 
松低く伸びたる先の薄氷
 
背凭れの真白きレース冴え返る


二〇〇九年投稿の俳句(二)

木の名札木の間に鳴れり春寒し
 
蒸されたる魚の身厚き春の宵*
 
春泥やなまあたたかき牛の舌*
 
教会も村も小さく春夕焼*
 
春時雨うす日さし込む古城かな
 
胸元を少しゆるめて春の風
 
白亜紀の崖しろじろと卯月かな*
 
サーファーに海占領の卯月かな
 
駆け込みし廂の深く余花の雨*
 
軒低き家並つづく余花の雨
 
水草生ふ池の真中の茶席かな
 
初桜旅の始めに橋渡り
 
宇宙船頭上通過す春の宵
 
薄闇に開き始めし紫木蓮
 
一陣の風一陣のつばくらめ


二〇〇九年投稿の俳句(三)

じやが植うる空どこまでも晴れてをり
 
木の影の少し濃くなり目借時
 
お砂場につぎつぎ生るるしやぼん玉
 
山の雲映してをりぬ植田かな
 
白鷺の何を見詰めし植田かな
 
青嵐海に翳りのなき日和
 
放流の水まつしろに青嵐*
 
筑波嶺の裾野に早苗揃ひけり
 
トラックの荷台明るき早苗かな*
 
じやがたらの花向かうより雨の来る
 
畑近く夏うぐひすの鳴き止まず
 
茅葺きの苔の厚さよ燕の子*
 
軒先に犬伏せてをり燕の子
 
まつくろな眼潤ませ燕の子*
 
酒蔵の壁の冷たく燕の子*


二〇〇九年投稿の俳句(四)

浅からず深からぬ濠夏つばめ
 
雨後の土蒸す匂ひ夏椿
 
四方みな開け放たれて夏炉かな
 
藻の花や昼よりは波高くなり
 
南天の花自転車で渚まで
 
乗客は一人きりなり秋扇
 
駅の名を諳んじる子と秋扇
 
穴惑村の名前のかはりけり*
 
大甕に酒を満たして穴惑
 
浦よりも低き蓮田や夏燕
 
半日で太りし胡瓜土用入
 
黒雲の流れの迅き我鬼忌かな
 
なかなかに揃はぬ太鼓合歓の花
 
八朔やいまだに慣れぬ土地訛
 
蜩や白く乾きし鍬の土


二〇〇九年投稿の俳句(五)

暗闇に鍵穴探す虫しぐれ
 
昼の虫風入れてゐる座敷かな
 
柿の実の鮮やかなるも少女の日
 
湯治場の膳に出さるる柿一つ
 
白木槿山向かうより晴れて来し*
 
まつしろき蛾の腹浮かぶ秋暑かな
 
欄干にもたれて描く水の秋
 
朝靄に汽笛かすかや貝割菜*
 
あふられてふきつけられて花カンナ*
 
夕暮れの島を去りがたきレモンの香
 
足伸ばしきつて網戸のいぼむしり
 
爽やかや土やはらかきところ踏み
 
指跡の少し浮かびし月明り
 
墨つけてバスに乗る子や秋夕焼
 
教会の脇に広ごる蕎麦の花


二〇〇九年投稿の俳句(六)

紅葉且つ散る子の声は明るくて
 
しづかにも連なる水輪冬近し
 
伊勢丹に待ち合せして年忘
 
家中に椅子集めをり年忘
 
鴉より低きに止まり初雀
 
初雀一羽づつ来る庭の隅
 
蛙にも縄張のあり眠りけり
 
雀来て鳩来て白鳥動かざる
 
長屋門入りて一列冬菜畑*
 
薬罐より酒注がれて親鸞忌*
 
冬の蠅由緒正しき壁にをり
 
心地好き雨の音なる落葉道
 
翡翠の巣のあるらしき冬紅葉
 
水飲んで吐く息白き廊下かな
 
空気にも重さありけり雪催


二〇〇九年投稿の俳句(七)

寒林のこまかに羽根をつかふ鳥
 
雉かすれゆくまで鳴けり冬至の夜



二〇〇八年投稿の俳句(一)

初午や舌が真つ赤になりし飴
 
路地の奥明るくなりし一の牛
 
春潮や岡倉天心馬上過ぐ
 
しゆるしゆると髪ほどけけり春の潮
 
うすうすと葱晒されて真白かな
 
大寒や五百羅漢の泣き笑ひ
 
シンデレラ靴忘れけり霜柱
 
酒蔵の梁から梁へ寒雀*
 
鮟鱇の一部始終を見てゐたり
 
崖つらら木根に絡まり伸びにけり
 
商店の軒深くまで寒念仏
 
荷を解いて新しき本春立てり
 
立春やみな凍りつく朝となり
 
クレヨンで描きし面や鬼は外
 
浜風にあふられてをり春ショール


二〇〇八年投稿の俳句(二)

草青むテニスコートの四隅より
 
剪定の帽子夕日に染まりけり
 
春の鳶増えし稲村ヶ崎かな
 
虫出しや手袋ひとつ忘れ来し
 
青饅や窓いっぱいに海があり
 
まつすぐに桐の花咲く下にをり
 
一雨に濃くなりにけり桐の花*
 
松蝉や天守の窓の小さかり
 
松蝉の出合ひ頭に鳴きにけり
 
兎小屋朽ちたるままに梅真白
 
一束のほうれん草を軒に売る
 
固まりて行き散りぢりに春田打
 
天井の一隅きしむ入彼岸
 
菜の花や線路の脇の一里塚
 
人気なき社の奥の桜かな


二〇〇八年投稿の俳句(三)

花衣日向日陰を出入りかな
 
ランドセル雨弾きをり四月かな
 
老鶯や駅舎は山に向かひをり
 
花祭仕度途中の小雨かな
 
銅探りし穴深々と余花の雨
 
どこまでも横穴つづくさくら冷え
 
黙読を音読にする目借時
 
春深し亀連なつて泳ぎをり
 
反物をひろげしままに目借時
 
たんぽぽの絮埋立ての空を飛ぶ
 
著莪の花昼の灯ともす仁王門
 
筍の皮のなだれし崖の下
 
登りきて息ととのへし夏隣
 
靴紐の結び目固く更衣
 
真つ白な花咲く頃や更衣


二〇〇八年投稿の俳句(四)

春月夜筑波嶺低き山であり*
 
熱き麺選ぶ卯の花腐しかな
 
手のひらにのせし青梅冷たかり+
 
青梅の湿りて卓に転がれり
 
なまぬるきガラスの向かふ蛇の衣+
 
ふくらせば動き出すかに蛇の衣
 
うす白き茅花流しのひかりかな
 
茅花流し赤き傍線増ゆるかな
 
ふくらはぎの辺りまで跳ね青雨かな
 
石段の濡れてひかりし橡の花
 
池真中大鷲飼はれ蓮浮葉
 
庵までの石段傾ぎ朴の花
 
絵硝子の古き駅舎や燕の子
 
お堀端迫り出してくる青葉かな
 
鼻高き土偶の顔の涼しかり


二〇〇八年投稿の俳句(五)

緋目高の卵をはなす震へかな
 
十薬や寺より墓の広かりし
 
目高の子手の平ほどの鉢の中
 
緋目高の卵透けゐる藻草かな+
 
一休み入れたる柚子の花の下*
 
お竈さんまだ残りをり夏燕*
 
笊籠をよく洗ひ上げ麦の秋*
 
明易し廊下に隙間多き家
 
境内に子の声もどる梅雨晴間*
 
桑の実の熟れて届かぬ水際かな
 
ぞわぞわと幼虫生るる茂りかな+
 
白昼の緑の中に入りにけり
 
田の中に墓を守りて草むしり
 
初茄子雨を弾いて光りけり
 
白壁に水揺らめきし夜涼かな


二〇〇八年投稿の俳句(六)

梅漬をひと揺すりする雨間かな*
 
朝に来て夕も出てゐる草むしり
 
ほうたるのひかりあをともみどりとも
 
田の奥の社灯され祭かな
 
夕風に祭支度の法被かな
 
行き止まることなき蟻のすすみかな
 
境内に手押しポンプの音涼し
 
美しくハンケチーフを使ふ人
 
黒揚羽ふいと降りたる水の上
 
経読みの畳に蠅の止まりをり
 
一僧の玉砂利を行く音涼し
 
さで掻きの落葉に跳ねし雨蛙
 
雨待ちの雷うれし日もありし
 
白南風や江ノ島動き出しさうな
 
浸食に砂浜細る極暑かな


二〇〇八年投稿の俳句(七)

かはほりの子のももいろに脈打てり*
 
花の種こぼれし二百十日かな*
 
唐破風の葉月の影の濃くなりし
 
唐破風にとどまつてゐる蜻蛉かな
 
稲妻や眠りのまなこ貫きし
 
文月の猫のうしろをついて行き
 
露踏んで登園の子の鈴鳴らし*
 
秋草や木椅子の割れ目より伸びし
 
草の花名を覚えては忘れけり*
 
あをぞらに月透けてをり小鳥来る*
 
天保の暖簾を出でて初時雨
 
一隅は晴れてをりけり初時雨
 
凍蝶の狂ひなく閉づ石の上
 
江の電の踏切小さく冬の蝶*
 
潜みをる稲雀田を揺らすかに


二〇〇八年投稿の俳句(八)

粉殻の山輝かす夕日かな
 
筑波嶺の裾に籾焼く煙かな
 
鳥群れて秋の夕焼の幕を引き
 
引き潮の浜に風なく秋の蝶
 
青柚子の一片にある力かな
 
柚子摘んで豊饒といふこの世界
 
石そこに己が影持つ水の秋
 
穭田のとんがつてゐる青さかな
 
木犀や雨降りさうな空のあり
 
花豆を干して小さな温泉場
 
山の水引いてしづかな紅葉宿
 
一筋の光洩れをり冬構
 
余り藁戸口に敷かれ冬構
 
行く年や本並べつつ揃へつつ*
 
行く年のペン先丸くなりにけり


二〇〇八年投稿の俳句(九)

朴落葉みな裏返り土の上
 
冬晴やカカオの花の真つ白く
 
筑波嶺に雲立ちやすく枯芒
 
筑波嶺に立ちて富士見ゆ寒夕焼
 
冬の月卵を抱いてゐるやうな
 
雨止んで柊の花ひらきけり*
 
冬の虹田と田をつなぎ消えにけり*
 
葱刻む音に始まり終るかな*
 
石段の真中くぼみし冬紅葉*
 
レリーフの天井高し冬館
 
海に向く十字の墓や十二月
 
降誕祭近づく街のあかりかな



二〇〇七年投稿の俳句(一)

うばぐるま押す幼子や春の泥
 
緋の空となりたる梅の真下かな
 
祖母搗きし草餅まづは仏壇へ
 
竹の秋根は青々と地を這ひぬ
 
春霞山頂向かう海といふ
 
夫の肩梅の花びら幾枚か
 
満開の梅の廊下を渡りけり
 
啓蟄や縦横に木根走りをり
 
春塵に葭簀まはして野点かな
 
東海道五十三次新茶かな*
 
通されし広間明るく新茶かな*
 
更衣日和となるを待つてをり
 
蚤の市開いてをりぬ更衣
 
足遅くちよつと太めや恋の猫
 
啓蟄の日本列島あふられし


二〇〇七年投稿の俳句(二)

山茱萸の花白壁の内にあり*
 
梅真白大きな石を切り出して*
 
跳ね橋の上りて朧月夜かな*
 
始まりは櫓門より鳥の恋
 
落椿鳥声近く遠くより
 
桃の花蔵と老人多き町
 
蕗味噌と酒おかれある山家かな
 
桃の花小さき池を囲みをり
 
雪形のあらはる峰の奥に富士
 
植木市無口な人が売りにけり
 
うごめきし貝春潮をこぼしをり
 
一本の白髪を抜きし花衣
 
モディリアーニの女の傾ぎ春の闇
 
空と土手まじはるところ春の雲
 
菜の花や一族の墓囲みをり


二〇〇七年投稿の俳句(三)

ふらここや手のひら鉄気くさくなり
 
春の空みづいろ暈し描きをへり
 
春コート颯爽と行く銀座かな
 
四方へとうすく紅ひく花の空
 
鎌倉に降りたち春の驟雨かな
 
朝礼の声の片隅ヒヤシンス
 
三月や埃うすうす古書の町
 
ゆつくりと茶葉沈みゆく暮春かな
 
霾ぐもり胸ふくらます鳩とをり
 
青き絵を眺めて春を惜しみけり
 
手を打つて一語生まるる春深し
 
風青し六十階のビルの上
 
幼子や小石・若葉を両の手に
 
田に水の浸みとほりゆく四月尽
 
其角てふあられ売る店藤の雨*


二〇〇七年投稿の俳句(四)

藤の雨フォロ・ロマーノへ浸みとほり
 
建て付けの悪しガラス戸柏餅
 
葉脈のまだたよりなき若葉かな
 
晩涼や湯を使ふ音つづきをり*
 
昨日より今日を涼しと思ふかな
 
電球の下の金魚の歪みたる
 
一匹になつてしまつた金魚かな
 
厨まで青梅の香のつづきをり
 
日輪も月も映して植田かな
 
日の力風の力や梅を干す*
 
紫の実を生む茄子の花の色
 
江の電の踏切小さく額の花*
 
父の日や後ろ姿の似てきたる
 
茄子の花あすの天気の話など
 
柚の花の散りし辺りや土香る


二〇〇七年投稿の俳句(五)

大海へ波間波間の海月かな*
 
二の腕にすこし冷たき青田風*
 
外に出でて夏至といふ日を確かめむ*
 
青い靴大好きな子や梅雨に入る*
 
二の矢次ぐ夏鶯の鳴きやまず
 
梅雨入かな葉も石もみな音をたて
 
花菖蒲ろ舟は雨に打たれつつ
 
あぢさゐの葉を隠すほど咲きにけり
 
くちなしの花アスファルト工事中
 
少年のうしろを犬の泳ぎけり
 
海紅豆つぼみは鳥の嘴に似て
 
トンネルの苔あをあをと半夏生
 
山雨きて廂の内に夏祓
 
阿夫利嶺の雨に打たるる茅の輪かな
 
山近く雲近くなり夏祓


二〇〇七年投稿の俳句(六)

待たせるといふこともあり合歓の花
 
路地裏も朝顔市の立つてをり
 
歌うたひながら葛原ゆきにけり
 
真葛原ここ街道の在りしころ
 
露葎小さき世界ありにけり
 
葉の先に生まるる露の玉ひとつ
 
水無月のアンモナイトの化石かな
 
一村がプラネタリウム天の川
 
かはほりの子の迷ひ来し母屋かな
 
一人きりといふことがよき端居かな
 
茹で上がる肉の塊大暑かな
 
大暑かな莟のままに落ちし花
 
われもまた三十五才我鬼忌かな
 
生きものの音高まれり蓮の花
 
田のみどり匂ひ濃くなる夕立かな


二〇〇七年投稿の俳句(七)

露しづくこぼして蓮の花咲けり
 
鳥を追ひ牛を追ひたる半ズボン
 
目に入る広さに海や蝉時雨
 
山百合や地球を削る波の音
 
門おほふ明治の家の百日紅
 
大学は古墳の上に草いきれ
 
根つこまでからまつてゐる葎かな
 
船室の人もまばらに晩夏光
 
ひぐらしやまだ熱さめぬ町の中
 
空蝉は宝物なり五歳の子
 
山の芋ありますといふ道しるべ*
 
稲を見て空を見てをる帰り道
 
爽籟や銀座三丁目あたり
 
八朔や背負子の紐の新しく*
 
雨止んで二百十日の畑のもの


二〇〇七年投稿の俳句(八)

朝顔やネヂ一本を町工場
 
目覚ましの代りとなりぬ威銃
 
活版の文字やさしく草の花*
 
恙無く桃を剥きたる暮らしかな*
 
鶏頭の赤のみ残す畑かな
 
季語あるといふたのしさや蚯蚓鳴く*
 
白露かな息ゆつくりと吐き出せり
 
一対の鶴輪郭を失はず
 
凍鶴や真下の水の小暗かり
 
茶が咲いて二間つづきの書院かな*
 
茶の花や大きな声で道を問ひ
 
朝顔やすこしばかりの豆を売り
 
つくつくし読経しづかに寺の昼
 
傘さして降りみ降らずみ子規忌かな*
 
椅子ひとつ雨に濡れをり藤は実に


二〇〇七年投稿の俳句(九)

それぞれの花を手向けて秋の昼
 
まだ先はうすみどりなる式部の実
 
深秋の川面へとどく船灯
 
その塔へ五百幾段秋深し
 
草の絮ひかりながらに小川こえ
 
秋の夜の虫にも声をかけてをり
 
雨後の林檎すつぱき石畳
 
手の中に冷たき柿の重さかな
 
秋耕のところどころに草のびて
 
植木鉢仰山ならべ残ん菊
 
冬支度みな日にあてて仕舞ひけり
 
八ミリの映写機回す夜長かな
 
薬喰酒は茶碗で酌み交し
 
足跡のかき消されけり薬喰
 
指切りをして別れけり枯野道


二〇〇七年投稿の俳句(十)

空もまた色なかりけり枯野中
 
酉の市頭上も混んできたりけり
 
時雨るるや弾痕とどむ黒御門
 
実験の傍らにをり冬木立
 
地下足袋で蕎麦喰ふ男小六月
 
引つ張れば落ちてきさうに冬の月
 
綿虫やひかりの粒となつて舞ひ
 
古暦余白少なくなりにけり
 
冬空を大きく鳶の旋回す
 
枯芝に長き影置く二人かな*
 
鮮やかに飛び出す絵本十二月
 
絨毯の分厚き廊下冬館
 
湘南の風受けてゐる冬の蠅
 
家々の明かりよく見え冬木立
 
南向き4LDK蔦枯るる


二〇〇七年投稿の俳句(十一)

冬の菊訥訥とある竿師かな
 
踊る子の手足揃はぬ聖夜かな
 
行く年の池の濁りや流れなく
 
雪しまく鳶は大きな羽を持ち
 
雪の畑青菜の少しのぞきをり
 
雪の畑何つひばむや鴉どち
 
巌頭に小さき祠冬怒涛
 
息吐いて雪の匂ひをたしかめる