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二〇〇八年春の俳句(一)

三椏や木屑とばして鑿使ふ
 
立春の泥にまみれし庭師かな*
 
白梅も紅梅も萼同じ色*
 
臘梅の匂ひを残し枯れにけり
 
立春の涵徳亭に座してをり*
 
涸れ井戸をのぞけばそこも下萌ゆる
 
梅見して梅の菓子ある座敷かな*
 
凍てゆるぶ蛇籠に石を詰めし音
 
ふくらんでふくらんで咲く梅の花
 
オブラート浮かべるやうにうすごほり
 
不揃ひな中学生や春浅し
 
剪定や土竜の土を踏みつけて
 
教会の裏口小さし猫の恋*
 
鳥獣の爪のごとくに茨の芽
 
薄氷ふるへながらに溶けにけり*


二〇〇八年春の俳句(二)

春灯大佛次郎記念館
 
天井の漆喰の罅余寒かな
 
ものの芽の産毛に触れし日向かな
 
庭園のどの花よりも犬ふぐり
 
真つ青に塗られし絵本寒明くる*
 
熱海まで鈍行列車春の雪
 
石段の多き町なり猫の恋
 
春の雲大室山のうしろより
 
野遊びや伊豆七島の一つ見え
 
呼ぶ人の声遠からず椿山
 
日溜りに椿は大き花であり
 
春燈や窓天井にまで届き
 
砲台は岬のかげに春疾風
 
店仕舞ひ早き駅前鰆東風*
 
竹撓ひ楠うねりける春疾風


二〇〇八年春の俳句(三)

野の梅の枝振り小さく花小さく*
 
湧水はあたたかなりし二月かな*
 
早春や膝を抱へし木のオブジェ
 
黒塀の隙間越しなる雛かな*
 
真向ひに白梅のある座禅石
 
辛夷の芽いつも光の中にあり
 
軒板の捲れあがりし余寒かな
 
春塵の吹き込む小さき御堂かな*
 
枝捩り曲りながらに梅の花
 
花粉症にマスクの進化ありにけり
 
浜少しありて若布の干されあり*
 
切通し霞む浜へと続きけり
 
制服の少し短く卒業す
 
高くなき山を選びて青き踏む
 
種蒔の横を飛びゆく種袋


二〇〇八年春の俳句(四)

鶯の尾のこまやかに飛びたてり
 
真二つに木の実の割れて芽吹きかな
 
竹細工いろいろありて日永かな*
 
水温む水の流れのままに亀
 
口笛の調子はづれに木の芽道
 
桃の日の裏も表もよく掃かれ*
 
あをあをとほうれんさうを洗ひけり
 
たばこ屋も雑貨屋もして種物屋*
 
朱のうすくなりし鳥居や藪椿
 
廃校の蛇口のゆるび水温む
 
啓蟄やまるく日当るところあり*
 
廃校の白墨禿びしままに春
 
廃校の時計正しく犬ふぐり*
 
てふてふや医院の壁の真白く*
 
春眠を覚えしままに鎌倉に


二〇〇八年春の俳句(五)

黴臭き土の匂ひや彼岸西風*
 
うぐひすや朽ちたる門の苔青く*
 
松の花取壊されし母屋かな
 
清明のうすく濃くなる空の青
 
蚊も居らぬお堂の隅や花の昼*
 
山吹や日陰はいまだ肌寒く
 
固まればぢつとしてをり蛙の子く*
 
蛙の子頭揃えて尾を振れり*
 
草餅や床几の少し傾きぬ
 
日の色を透かして散りし桜かな
 
花筏亀の鼻面かすめ行き
 
アスレチック遊具木製春の山
 
やはらかき葉に触れてゐる虚子忌かな*
 
風鐸や風おさまらず桜冷え
 
花冷の水際に襟立てにけり


二〇〇八年春の俳句(六)

花冷や虫の翅音のけふはなく*
 
晴れてきて砂しろじろと花の昼*
 
文具屋の入り口狭き養花天
 
また雨の匂ひして来し花茨
 
いろいろな鳥潜り入る桜かな
 
湾の奥ディズニーランド春霞
 
足長の虫のよこぎる暮春かな*
 
登りきて息ととのへし夏隣
 
草に手をのべて八十八夜かな
 
沢音の近くに聞こゆ藤真白
 
濃山吹追ひ越されゐる日向道
 
草ちぎりながらの道や春惜しむ
 
水口は閉ざされしまま草苺
 
白藤やひとすぢの日の濃くなりし*
 
白藤や崖の下にも畑あり


二〇〇八年春の俳句(七)

草苺側溝に水あふれけり