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二〇〇八年夏の俳句(一)

草の間にぬれて青梅転がれり*
 
梅林の空の広しや更衣
 
雨空のどこか明るき聖五月
 
梅さほど葉を繁らさず卯月かな*
 
紫蘭咲きあまどころ咲く甘雨かな*
 
雨に散る真白き花や更衣
 
番台は二代目なりし菖蒲の湯
 
新緑にまだ残りをる花粉かな*
 
裏山の崩れしままやほととぎす
 
グラニュー糖さらさらこぼれ夏に入る
 
折り紙の武具を飾りし駅舎かな
 
ひなの毛の揃はずまだら五月来る
 
踝のあたりをかすめ夏燕+
 
雨止んで光もどりし五月かな
 
鳥獣の匂ひ消し去る緑雨かな


二〇〇八年夏の俳句(二)

芍薬にかがめば首のあつくなり
 
芍薬のひらけば土に近づきし
 
手に受けし水の冷たく朴の花*
 
黄あやめに短き橋をわたりけり
 
緑さす池に透けゐる藻蝦かな*
 
池あればのぞきたくなり五月来る
 
隣また宅地となりし麦の秋
 
洋館の赤き絨毯梅雨湿り
 
入梅の樋に破れ目ありしかな
 
半身を芝生に置きし蚯蚓かな
 
短くもトンネル暗しほととぎす*
 
薔薇垣に匂はぬ薔薇のありにけり
 
なまぬるき雨の匂ひや麦の秋*
 
水面をすべりくちなは草に消え
 
行き止まるか行き止まらむか花うばら


二〇〇八年夏の俳句(三)

初音町寺の合ひ間の枇杷青し
 
煎餅屋も錻力屋もあり燕の子
 
路地裏をへび道と言ひ額の花
 
南吹く裏に廻れば墓広し
 
天井も窓もカーブの夏館
 
団子坂這ふやうにゆく梅雨の蝶
 
猫多しオリーブの花咲く町に
 
梅雨晴間地を這ふ虫のよく動き
 
毛虫焼く煙あがりし芒種かな+
 
あぢさゐのふくらみに手を置きにけり*
 
使はれぬ大きな卓やほととぎす*
 
寝て一畳すこしはみだす午睡かな*
 
緑蔭に蜂抜けて行く道のあり
 
少年の声残響の桜桃忌
 
掘り起こす土蒸せかへる梅雨晴間+


二〇〇八年夏の俳句(四)

でで虫の子の細き葉に連なれり
 
蜥蜴の子十指ひらいて舌を出す+
 
照りもせず晴れもせぬ日や花菖蒲*
 
捕まへて草のにほひの雨蛙*
 
北国の奥の奥まで青田かな*
 
少年のやうに破顔や夏蕨*
 
生ぬるき風と言へども扇かな
 
水差へ水たつぷりと夏の月
 
明易しみづうみの音無きことも*
 
支那蕎麦屋客も店主も玉の汗
 
汗ばんで句帳投げ出す畳かな
 
藤蔓の先の先まで蟻すすむ+
 
園の隅鶴ひつそりと羽抜けをり
 
梅雨明の前の晴間や水にほふ*
 
緑陰や大白鳥の足太く


二〇〇八年夏の俳句(五)

三伏の水に求むる水の音
 
はんざきの真正面の笑ひ顔+
 
どこに居ても汗ばむ部屋やつひに出る+
 
美しくハンケチーフを使ふ人+
 
浅草寺鬼灯市に暮れにけり
 
金魚売昼を灯して宵を待つ+
 
鬼灯の市をはなれて路地しづか*
 
蝶とんで鬼灯市に見失ふ+
 
風鈴の五重塔へひびきけり
 
埃立つ市にラムネの玉鳴らす+
 
水打つて土の匂ひの立ちにけり
 
町ごとの印半纏釣忍*
 
病院の窓より四万六千日
 
夏旺ん草屋に熟るる実のいろいろ
 
大磯に揚羽蝶よく飛ぶ日なり


二〇〇八年夏の俳句(六)

でで虫を拾へば軽き夏の道+
 
図書室に涼しく本の並びけり+
 
夏の風潮の匂ひにパンの香も+
 
縁側に汗ひくまでと長居せり+
 
昼の熱肌に残りて夏座敷+
 
背の高き人の日焼や木のごとく
 
江ノ島を真正面に端居かな
 
雲の峰鎌倉山の間より
 
藻を残す土用の川の細き水*
 
足指に砂のざらつく極暑かな
 
汗拭ひ帽より垂らし郵便夫
 
跣足の子海の滴を垂らしゆく
 
草鉄砲打つ音高き極暑かな
 
三伏の毎日干され体操着
 
氷菓なれば美しき色青・みどり+


二〇〇八年夏の俳句(七)

風向きのヨットに見ゆる岬かな
 
色褪せし帽子目深にダリア剪る
 
夏落葉澱みしところ牛蛙
 
炎天に整髪料の匂ひくる
 
昼闇に山百合の斑のうきあがる
 
生え際を汗に濡らして亀呼ぶ子
 
夏の果しづけさ戻る芝生かな
 
踏み出せばぬかるみもあり草いきれ*