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二〇〇八年秋の俳句(一)

虫どちの重なり合うて秋暑し*
 
耳元をぶあんとやんま過ぎにけり+
 
標本の虫に目の玉秋暑し+
 
跳べさうな小さな池の莕菜かな*
 
梨熟れて青柿は粉を吹くやうに+
 
八月や一人きりなる道の奥*
 
白雲も黒雲も湧く残暑かな*
 
先生の家見えてをり盆の風*
 
廃校に大きく育ち破芭蕉
 
八月のみどり極まる峡田かな
 
とびこんでみたき流れや秋暑し
 
銀杏の実青きまま落つ藤村忌
 
文月の猫のうしろをついて行く+
 
きちきちや磨り減りし下駄揃へあり+
 
新涼の構内結ぶアーチかな*


二〇〇八年秋の俳句(二)

学生は学問のこと爽やかに*
 
石つたふ先明るかり酔芙蓉
 
潜みをる稲雀田を揺らすかに
 
何となく主に似たる案山子かな
 
坂急に険しくなりし秋の暮
 
小鳥来る廊下きしみし御宿かな*
 
流鏑馬の砂巻き上がる残暑かな*
 
谷深く分け入つてゐる葉月かな*
 
きちかうや木戸傾きしままに朽ち
 
秋草のあふれんばかり背負子かな
 
コスモスや雲の高さに山のあり
 
山の日に眼光りし鬼やんま
 
川魚は用心深く吾亦紅
 
積み肥の人の高さに貝割菜
 
秋草や木椅子の割れ目より伸びし


二〇〇八年秋の俳句(三)

越せぬ石ありて幼きちちろかな
 
いろいろの実の太りゆく白露かな*
 
煎餅を前歯奥歯でさやかかな
 
大皿の古伊万里出され秋祭
 
酒ずらり並ぶ框や秋祭
 
蜂の足きらきら光り秋日濃し+
 
水引の赤に始まる野道かな
 
蜘蛛の糸千切れて長き秋の風+
 
秋草を引けば掌切れさうな
 
おもいぐさ触れれば固き花と知り
 
昼過ぎの机に向かふさやかかな
 
一筋の風の道ある子規忌かな
 
椎の木の土塁を守り小鳥来る
 
館跡は大樹を残し法師蝉
 
行き止まるところみな寺萩の風


二〇〇八年秋の俳句(四)

賢治忌の雲の切れゆく青さかな
 
秋草の絮つまんでは吹いてをり
 
椿の実はじけて種の軽き音
 
秋晴や草束ねたり括つたり
 
秋晴の船みな小さき港かな*
 
渦巻の貝の奥より秋の蠅
 
秋風やマストの鳶の動かざる
 
一位の実いつもの角を曲りけり
 
身に入むや時折高き鳶の声
 
十一人塚の短き曼珠沙華
 
波かぶりさうなるところ尾花かな*
 
秋の日の中へ途切れず蜘蛛の糸
 
菊月の供へし水は山の水
 
翅持ちしものの透けゆく秋日かな
 
雀より遠くに居るは石たたき


二〇〇八年秋の俳句(五)

塀低くところどころに野菊かな*
 
芋虫のつめたく草によこたはる*
 
雨降りさうな空より金木犀
 
木犀の坂道下るところまで
 
秋風や眠りを誘ふ舟の揺れ
 
秋蝶や木橋の濡れて音のなく
 
舟底にあたる水音秋深し
 
木犀の葉裏に蜘蛛の足たたみ
 
秋風や呼べば兎の鼻動き*
 
猪牙舟の早きに桜紅葉かな
 
縁側の栗剥く人に道を聞き
 
丁寧に砂を掃き寄せ菊日和
 
物干しに秋の風鈴遊女塚
 
草稿にうすく朱のあり秋惜しむ
 
濃むらさき薄むらさきの秋の園


二〇〇八年秋の俳句(六)

野ぶだうの蔓先蟻の回転す
 
烏瓜祠に面なき仏*
 
毛根は強きものなり野分過ぐ
 
松手入刃先を飽かず眺めをり
 
背伸びして石榴指先よりこぼる
 
覗き込むバックミラーも紅葉かな
 
猪垣に金色の紐銀の紐*
 
もみづるに息深うして仰ぎけり*
 
水音の迫るうす闇残り菊
 
晩秋や宿木の実はまだみどり
 
とんぼうの目玉に似たり山ぶだう*
 
月見へぬ闇に語らふ月のこと
 
草の実のこぼれ浮くもの沈むもの
 
今年藁束ねし上に座してをり
 
次々と蟻の出でくる黄菊かな


二〇〇八年秋の俳句(七)

真つ青な空へたちたる稲埃*
 
刈田風みな犬を連れ子供連れ
 
日陰なる藪の奥より冬に入る
 
翁には育ち過ぎたる松手入
 
山際に家を構へし葛嵐*
 
掛稲に手を差し入れて冷たかり
 
濃く影の伸びてきてゐる刈田かな
 
後ろ足少し弱りしばつたかな
 
次の日は勢子となりたる鹿火屋守*
 
羊歯の葉にくるまれ茸届きけり
 
許可証をもらひ受けたる茸狩