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二〇〇九年夏の俳句(一)

おほでまり小さな門を入りてすぐ*
 
葉桜や人力車夫の歯の白く
 
花は葉に石に登れぬ亀のをり
 
牡丹の根元の土のやはらかく
 
更衣葉擦れの音の軽き中
 
木の影を出る明るさよ揚羽蝶*
 
薔薇垣に深く眠れる人のをり
 
日傘港に白きもの多く
 
海の吐く泡とも思ふ海月かな
 
出払つて一人占めなる昼寝かな
 
風向きを葉音に知りし昼寝かな
 
貝拾ひ石拾ひつつ日傘
 
朴の花パン工房の煙かな*
 
夏蓬橋の下より笑ひ声
 
青鷺も漁師も糶を待ちにけり


二〇〇九年夏の俳句(二)

竹皮を脱ぐや難所を一つ越え
 
蛇衣を脱ぐや全山真青なる
 
病葉の四万十川へ散りにけり
 
玉子焼買うて卯の花腐しかな
 
桜の実赤く透けをり飛行船
 
大南風離宮の水の絶えずあり
 
糶終へて車洗ひし朝曇
 
蔓の先みなやはらかく緑さす
 
青虫がふやけ卯の花腐しかな*
 
屋根に猫のぼりて泰山木の花
 
水際に立つ家のあり明易き*
 
波音の重たき日なり夏つばめ
 
子を乗せて自転車の父麦の秋*
 
古茶新茶雨に蒸したる海の家
 
黴畳つま先立ちに歩きけり


二〇〇九年夏の俳句(三)

相槌に団扇を使ふ夕浜辺
 
鳥は木に虫は葉裏へ梅雨に入る
 
めまとひやところどころに薄日射し
 
六月や眠たくなりし花の色
 
涼しさは水の上行く木橋かな
 
余り苗きれひな水の側にあり*
 
高き木に囲まれ沙羅の落花かな*
 
十薬やまはり道して水の音
 
園の子のいつも裸足や梅雨間近
 
あめんぼや少し遅るる人を待ち*
 
白扇をたたみ翁の話聞く
 
白砂の眩しき茅の輪くぐりかな
 
池の底亀這つてゐる夏越かな*
 
扇風機二台まはして綿帽子
 
雨安居の畑に育ちし虫どちも*


二〇〇九年夏の俳句(四)

大山のすぐに雨来る茅の輪かな
 
片白草水に少しの流れあり
 
雨の来て廂の内の夏越かな
 
夏萩や涼しき声の人とをり
 
竹の根の崖突き抜けし日の盛
 
魚の眼を喰らうて梅雨の鴉かな
 
みづうみの強く匂ひし揚羽蝶
 
三伏や松に近づく下駄の音*
 
藻の花や昼は波音高くなり
 
星祭みづうみへ出る舟小さく*
 
柄杓より水飲んでをり星祭
 
うすものやみづうみをくる風ぬるく*
 
泣いている子に近くをり羽抜鳥*
 
一つ灯に頭寄せ合ふ夏座敷
 
涼しさは美しく鳴く鳥のこゑ


二〇〇九年夏の俳句(五)

親指のぬつと突き出す素足かな
 
本日は定休日なり浮いて来い
 
金蠅のうるさく川の匂ひけり
 
墨堤は青水無月となりにけり*
 
境内は近道なりしうすごろも
 
水打つて鬼灯市は明日からと
 
竹伐つて紐散らばつて釣忍
 
川波の高く濁るる小暑かな
 
土踏まずくつきりと見え夏座敷
 
三伏のほどよき餡の甘さかな
 
籐椅子を少し軋ませ海に向く
 
首の上の頭重たき日の盛
 
甲高き声の人なるサングラス
 
真上から横から風の大暑かな*
 
あふられてふきつけられて花カンナ


二〇〇九年夏の俳句(六)

灼くる道蜂死んでゐる黄色かな
 
網戸ゆるみて海風にふくらめり
 
不揃ひな座布団重ね籐寝椅子
 
ピアノ弾く跣足の指の白くなり
 
由比ヶ浜中ほどよりの跣かな
 
汗ひいてゆく眠たさのありにけり*
 
日盛や一声かけて座を離れ
 
姫百合や草にかくれし水の音
 
片蔭に入りて翅音のせはしなく*
 
風とともに夏の蝶くる三和土かな
 
草の根の力の強き旱かな
 
うす寒き風吹いてをり蝉の穴
 
白シャツの襟立ててゐる若き顔
 
水音が近く麦稈帽子かな
 
白玉や奥の間いつも薄暗く


二〇〇九年夏の俳句(七)

青田道俄かづくりの野菜売り
 
白玉や大きな声で話されし*
 
青田風廂の内の明るかり
 
まはりみな青みたる中日傘かな
 
終点まで車掌と二人茄子の花
 
板塀の向かうの水音夏惜しむ
 
思案せるやうに沈みし金魚かな*
 
青蔦や文士の町の坂多く
 
ビール飲みつつもしづかな句会かな
 
足長き蜘蛛ゆつくりと蓮の花


晨 特別作品 蓮ひらく

枇杷青し流るる水に手をつけて*
 
のうぜんや縁側広く軒低く*
 
ひといきに山隠しけり半夏雨*
 
きうりのつるのてつぺんに雨蛙*
 
竹垣を押しつぶしたる茂りかな*
 
みづうみの向かうより雨蓮の花*
 
草いきれより出でにけり渡し舟*
 
一雨に濡れて竹伐る祭かな*
 
黒南風や芋銭の河童遊び出す*