鐙坂学問所脇白木槿 まだ青き実のいろいろや星祭* 軒下にまこと小さき葡萄棚 立秋の微分積分カントかな 沼に竿突き出してゐる残暑かな 蜩や四阿に人待つてをり 初秋の草を手折れば糸引いて* 渡し場に羽散らばつて残暑かな 新涼や足伸ばしつつ舟の上* 新涼や手賀沼に舟走らする 腹這ひになつて八月終りけり* 山陰に少し休みてつくつくし 虫どちは休まず処暑の日射しかな 爽やかや蔓引つぱつて山の道 海藻のやうなる花弁百日紅
その奥に芙蓉の咲きし流れかな いぼむしり顔を斜めに進みけり 何の実か仰ぎつつ行く秋の昼 八朔の白き花ある流れかな 山芋の蔓伸びてくる水際かな 青団栗袴外れし淋しさよ 案山子にも立派なる服着せてをり ステッキをついて巡りし豊の秋 秋の蝉追はれて高き声を出す 蔵の戸の外されてをり秋の風 露草や火かけて果てし館跡 庭石の青みてゐたり萩の風 うす暗き所より出で萩の風 菊の日の半日日蔭なる御堂 二の腕の少し冷たく秋の昼*
魚店にとんぼうも来て鳥も来て 虫とんで人も紛るる秋の草 トタン板紙切るやうにさやかかな 犬もまた顔馴染なり秋彼岸 自転車のつぎつぎとほる鯊日和 佃島水門小さく花芒 船宿の開けつ放しや秋の蠅 天高し歩をゆるめたる石畳 頬張るといふ旨さあり藤は実に 凭れたるところも秋日濃かりけり 川風の秋風となる社かな 境内の砂乾ききる萩の昼 きちきちやかすかに砂を巻き上げし 幹に手をかけて名残りの百日紅 飴色に蜘蛛透きとほる秋日かな
数珠玉や波音低く背ナ暑く 極楽寺駅の小さく水澄めり 藤は実に砂浜少し固くなり 葛の葉やその下に道あるらしき まつしろき何の繭とや秋日濃し 磯饐えし匂ひありけり曼珠沙華 追ひ払ふほどでもなきが秋の蜂 新聞に実をこぼしをり秋灯 秋雨がプールの底を打ちにけり 川向かう行かず仕舞や曼珠沙華 鶏頭や向かひ合はせに社・寺 秋草を踏んで細い子太つた子 鴉鳴き鼠の走る刈田かな 木犀や町長室は南向き 雨冷えの博物館は森の中
子集えば飛礫となりし木の実かな 天高し校章光る旧校舎 御座所まで低く行きけり秋の蝶 階段の左に傾ぐ秋思かな 掛稲や武蔵国府の道広く 内側は黒塗りの鎌枯蟷螂 冷やかや廊下擦れる音高く ○草の花巻き込んでゐる水車かな 木斛は実となり鉄路歩く人 洋館は小高きに建ち青みかん 鳶ふひに降り来る秋のテラスかな ブロンズの乳房を伝ふ秋の雨 色変へぬ松洋館は雨の中 どんぐりや文学館の石畳 肌寒の赤い絨毯踏みにけり
石蕗の花晴れて来さうな沖のいろ やや寒の警備会社が同じ家 紅葉かつ散る子の声は明るくて 向かう岸までは遠かりうすもみぢ 秋の蜂翅草に触れ土に触れ 下草は枯れて伏したる秋野かな 瞼を閉ぢれば赤く秋思かな 木の中に入れば木の影秋惜しむ 片側に光あつまる秋の池 しづかにも連なる水輪冬近し 鍋鎌が賑わひ馬は肥えにけり 種明かし見破らんとす秋ともし 柿置いておさまりの良き窓辺かな